剛直高分子の垂直配向制御
前駆体が発現するリオトロピック・スメクチック液晶の熱力学的性質および層構造が表面から積層成長する性質を利用して,垂直配向を達成します.垂直配向した前駆体は配向を維持してポリイミドに変換され,剛直高分子の垂直配向が実現します.剛直高分子は基板面に平行に配向する傾向が極めて強く,このような垂直配向膜の作製は,これまで困難とされてきました.垂直配向したポリイミドは面外に高熱伝導性を有する高性能の絶縁層に応用できます.
研究概要
キーワード:高分子,ソフトマター物理化学,液晶
石毛研では,液晶やミクロ相分離などの自己組織化を活用した高分子の高次構造の制御法と精密構造解析法の融合によって、高分子の構造・物性相関の解明を目指しています.
研究を通じて「高次構造の理解に基づく分子設計・合成」→「構造解析と物性測定」→「分子設計~」...のサイクルを実践しながら、高分子特有の構造と物性に関する理解を深めます.
おもなターゲットは,400°C以上の高い耐熱性を有し,高機能性フィルム材料として高い付加価値が期待される剛直高分子です.剛直高分子は不溶・不融のため,製膜には可溶性の前駆体を用います.前駆体は熱処理によって剛直高分子に変換されるため,前駆体の溶液をキャスト,焼成することで剛直高分子のフィルムが得られます.その中でも特に,室温で自己組織化能(リオトロピック液晶やブロック共重合体のナノ偏析構造)を発現し,加熱により剛直高分子に変換される前駆体群に着目しています.前駆体溶液を室温にて配向・配列を制御しながら製膜した後に焼成することで,液晶様の構造やナノドメインなどの高次構造を有する剛直高分子のフィルムを自在に作製することが可能です.特有の高次構造によって,一次構造(モノマーの化学構造)の設計だけでは実現できない機能の発現が期待されます.
特色
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前駆体が発現するリオトロピック・スメクチック液晶の熱力学的性質および層構造が表面から積層成長する性質を利用して,垂直配向を達成します.垂直配向した前駆体は配向を維持してポリイミドに変換され,剛直高分子の垂直配向が実現します.剛直高分子は基板面に平行に配向する傾向が極めて強く,このような垂直配向膜の作製は,これまで困難とされてきました.垂直配向したポリイミドは面外に高熱伝導性を有する高性能の絶縁層に応用できます.
ポリイミドとポリジメチルシロキサン(PDMS)を共重合したマルチブロック共重合体は,PDMSがポリイミド母相中で偏析したnmスケールのドメイン構造を形成します.このPDMSナノドメインは昇降温によって可逆に負熱膨張を示すことを見出しました.これにより,従来はトレードオフの関係と見なされてきた「柔軟性」と「低体膨張率」を同時に実現する,新規のポリイミドフィルムを得ることができました.微細化とフレキシブル化が進む各種の集積回路の絶縁層に最適な材料になると期待されます.
スメクチック液晶相においては基質が向きをそろえて層(二次元)に閉じ込められるために,固体であっても高い反応効率が得られます.この性質を利用して,リオトロピック・スメクチック液晶を発現する前駆体に架橋性基を導入し,効率的に架橋を導入したフィルムを調製できます.架橋反応はフィルムの体膨張を抑制するために積極的に利用されてきました.スメクチック液晶構造をもつ架橋性前駆体の検討により,共有結合の生成が必ずしも体膨張を抑制するわけではなく,体膨張の抑制には共有結合の生成する方位が重要という新しい知見が得られています.
集積回路の絶縁層に適用される高分子には高い熱伝導性が要求されますが,高分子は分子鎖間に隙間があるために,一般に熱伝導が低いとされています.一方で,分子鎖が高度に配向した高強度ポリエチレン繊維は冷感寝具に使用されるほど,熱伝導が高いことが知られています.このように,高分子の高次構造と熱伝導性の相関は必ずしも明確にはなっていません.我々は,異なる一次構造をもつ種々の前駆体から同じ一次構造をもつポリイミドが生成することに着目し,一次構造が同一でありながら高次構造(非晶,ポリドメイン液晶,擬モノドメイン液晶構造)が異なるポリイミドフィルムを調製することに成功し,熱伝導と高次構造の相関解明を目指しています.
液晶分子にキラル(光学活性)部位を導入することで,メゾスケールのらせん構造を形成するコレステリック液晶などのキラル液晶を得ることができます.リオトロピック液晶性前駆体にキラル側鎖を導入し,らせん構造を固定化したポリイミドフィルムの作製を目指しています.一般にキラル化合物は高価ですが,キラル側鎖は前駆体がポリイミドに変換される際に脱離するため,それを回収して再利用もできます.すなわち,原理的にはアキラルな物質からキラルな構造を無尽蔵に得られると期待されます.
剛直高分子の前駆体の溶媒には高極性のアミド系溶媒が用いられますが,欧州ではこれらの溶媒の使用規制が進んでいます.石毛研ではクリーンな環境で製膜可能な水溶性のポリベンゾオキサゾール(PBO)前駆体の配向制御に取り組んでいます.この前駆体は側鎖のイオン化によって水に可溶化し,対イオン種によって発現するリオトロピック液晶の構造が変化する興味深い現象を見出しています.